第13回うつ病はこころの風邪か?
今日からはうつ病の話しです。うつ病は普通に考えられているよりも一般的な病気であり、10人に1人が生涯の中で一度はうつ病に罹患します。
そのため、うつ病は“心の風邪”といわれることがあります。
確かに多くの人がその病気にかかる可能性があるという意味ではその通りですが、うつ病の症状は風邪とは比較にならない程辛く、生活への影響は甚大です。世界保健機構らの調査において、うつ病はその罹病率の高さ、罹病期間の長さ、症状の重さなどから、生活の質を落とす原因の第1位にランクされているほどです。
何といっても“風邪は万病の元”なのです。
日本では年間の自殺者がここ数年連続して3万人を超えており、社会問題になっています。自殺の原因のすべてがうつ病によるものとはいえませんが、調査によると自殺者の6割以上にうつ症状があったという結果が出ています。毎年の交通事故による死亡者数が1万人前後で推移していることを考えても、うつ病はもっと注目されるべき疾患でしょう。
うつ病の難しさは、もう一つの代表的な精神疾患である統合失調症とは異なり、その症状の“わかり易さ”にあります。うつ病の症状は“やる気が出ない”とか“食欲が落ちる”“眠れない”“体がだるい”“寝起きがすっきりしない”“頭が重い”といった、誰でも当たり前に経験するものばかりです。
つまりはその症状が誰にでも体験があるために、うつ病になっているその人自身や周囲の人たちもそれが病気の症状とは思わず治療に結びつかないため、病気である期間が長くなり、結果的に多くのものが失われてしまいます。うつ病では、身体的な検査においては異状が見つからないために、“気のせいだ”“怠け病だ”といわれ、“自分さえしっかりすれば”“こんなこともできないなんて”と自分を責めることで、さらに気分を落ち込ませるという悪循環に陥っていることが少なくありません。
しかし、うつ病は治療によって回復する病気です。うつ病には抗うつ薬というその名前の通りの特効薬があります。ここ数年の薬物療法の進歩は著しく、今では副作用の心配もほとんど無くうつ病を治療することが可能となっています。
ただ残念なことに近年の調査によると、うつ病と考えられる人のうち、抗うつ薬による適切な治療を受けているのは5%に満たないという結果が示されています。
繰り返しになりますが、うつ病はそれほどまでに見落とされやすい病気なのです。
次回からはうつ病の具体的な症状や、治療、周囲の人が注意すべき点などについてお話ししていきます。