第3回薬物療法について
精神神経科の治療は、薬を用いる治療(薬物療法)と、薬を用いない治療(精神療法と社会療法)の二つに分けられます。どちらの治療も重要で、相互に補完的なものです。例えば、精神科を受診し医療者に悩みを受けとめてもらい指導を受けるという精神療法が施されると、薬に対する不安も軽くなり薬物療法はより効果的です。逆に薬を服用することで強い幻覚や興奮が改善し、精神療法や社会療法が受けやすくなります。
5、薬物療法について
昨今の治療の中で特に進歩したのは薬物療法です。精神症状に治療効果がある薬を向精神薬といいますが、向精神薬が脳のどこに効くのか?なぜ副作用が起こるのか?その副作用を減らすにはどうすればよいのか?といった、薬物療法を受けている人と薬物療法を施している医療者の疑問や要求により、脳の生化学や生理学、薬理学の発展が促され、大きな進歩を遂げた様です。この5年間に、以前と比較すると副作用の少ない薬が数多く世に出されました。
薬物療法は、「この病気にはこの薬を処方する」というのではなく、「この症状にこの薬を処方する」というように、薬物療法のターゲットは精神症状です。以下にその症状と用いる向精神薬を紹介します。
幻覚(幻聴、幻視や体感幻覚等)や妄想(被害妄想等)、強い焦慮、緊張や興奮等に対しては抗精神病薬という薬を用います。抗精神病薬には特有の錐体外路症状(手の振るえ、筋のこわばり等)という副作用があります。その副作用を極端に少なくしたものを非定型抗精神病薬といい、より服用しやすくなりました。
憂うつ感、意欲の減退、パニックや不安、強迫症状(確認や洗浄を何度もしなくては気が済まない)等に対しては抗うつ薬や抗不安薬を用い、抗うつ薬では口の乾きや便秘といった副作用の少ないSSRI、SNRIが主に用いられるようになりました。しかし抗うつ薬の効果が出始めるのに1~2週間かかるので、比較的早く効果が出る抗不安薬を併用することも多くあります。不眠症には睡眠導入薬を用いますが、うつ等の症状に不眠が合併する場合も併用します。
その他には、多弁、多動、気分が高揚する等の躁状態に対する抗躁薬、認知症(行政用語として痴呆症という病名は平成16年12月から変更されました)の認知機能の改善を図る抗認知症薬、けいれん発作を止めるための抗けいれん薬があります。抗酒薬といって、この薬を服用し飲酒すると頭痛、吐き気などひどい二日酔いの状態になる薬もあります。
次回は薬を用いない治療についてお話しします。