第8回初期症状から急性期症状と病識の変遷
統合失調症の初期症状を、本人は違和感として自覚できるように、普段の自分にない状態を「病気ではないか」と判断できることを「病識」といいます。しかし、病初期にあった病識は、病状の進行により曖昧になり、結局消失することもあります。妄想等の激しい急性期症状への経過についてまとめてみます。
- 初期症状により「集中できない」等の違和感について、「何故このようなことが起きるのか」という意味を考えたり、「何とかしよう」と対処を考えても症状は消えないため、神経がすり減りひどい疲れを自覚することが多い様です。不眠などの睡眠障害も伴います。この段階では病識があります。
- それでもなお、普段気にならない周りの音や雰囲気、人の仕草に過敏になり、例えば「何か特別の意味があるから人は笑っているのではないか?」「何かのサインがどこからか送られているかもしれない」と疑い深くなります。集中しようとしても考えがまとまらず混乱し、徐々に病識は曖昧になります。
- この状態が続くことは本人にとって不安や恐怖であり、予期せぬことに備えて、人との接触を避け部屋に閉じこもりじっとしていることもあります。この状態を自閉といいます。また幻覚として、自分のことを言われる内容の幻聴なども出現します。このように自閉をすることは、自分を守るための手段であると考えられます。
- 何とかこの事態を納得させるために理屈を考えます。例えば「人が笑っているのは、自分のことが外部に漏れているからだ」と考え「部屋に盗聴器が仕掛けられている」と結論付けたりします。この状態で病識はなくなります。
- この状態で人に関わると「自分を馬鹿にしようとたくらんでいる」等と感じるため怒りっぽくなり、時に「追い込まれた」と感じ急速に緊張感が著しくなり、強い拒絶や興奮が起きてしまいます。
初期症状において本人に病識があり家族や周りは気付かないことが多く、逆に急性期になると本人に病識はなく家族や周りは気付いているということになります。よって家族は心配し病院への受診を勧めたりしますが、本人は「自分を病気呼ばわりする」と余計に被害的になり、関わりを避けます。
病識は治療を続けることにおいて大切なものですが、急性期の混乱のあまり記憶がハッキリと残らないこともあり、病識も根付かないことがしばしばです。また精神病と言うレッテルを張られる事への抵抗もあるかもしれません。治療の中で、私たち精神科医は病識を持って頂くため、強く説得することはせず、その人の経過の長さや病状を考慮し、ゆっくり時間かけ自然に理解して頂く方が良いと考えています。病識を持つと言うことは、その人の人生にとって大きな転機(自殺など)になることもあり、慎重に丁寧に接していくことが特に大切です。
次回には何故このような症状が起こるのか、理解しやすい仮説と急性期の治療についてお話しします。