第12回長期入院と地域の役割
これまで統合失調症の初期、急性期、回復期からリハビリの話をして来ましたが、うまく回復することの一方で、なかなか回復しきれない方もいます。治りきらない症状が残り、その症状を治療するために、やむなく長期の入院をしたため、社会性を失い、暖かく迎える家庭や職を失い、症状自体は通院できる程度に回復していたとしても、入院生活を送っている方も多くいます。仮に社会福祉により生活費が保証されても、退院していきなり孤独な単身生活を開始することは困難なことです。病院を退院して社会生活を送れないのは、病気のためばかりではありません。調度、足の骨折を治療するのに手術を行なった結果、骨はうまくついても後遺症として歩行障がいに悩む場合と似ています。この状態には歩行を補う杖や車いすなどが、失われた機能を補うことを可能にしているように、精神医療、福祉においても特に以下の三点が重要です。
その一つ目が生活の場所の提供です。生活は住む場所に限らず集う場、休む場、働く場の確保です。二つ目が人とのつながりです。これまで病院内の人との関係ばかりでしたが、町内会や隣の人、アパートや下宿の住人との結びつきです。三つ目が経済です。生活できるに十分な生活費、通院や施設の利用費などの確保です。通院医療費の公費負担や障害年金、障がい者手帳での税制優遇等の利用ができます。
そして、車いすの人が動き易いようバリアフリーがなされた様に、周囲の環境の面で「社会参加をしやすくする」ことであり、「本人の制約をカバーする環境づくり」が大切です。それにはこの地域に暮らす人々が「障がいを持つことは恥ずかしいことではないこと」「障がいを抱えながらも生きていくことは誰にでも与えられた権利である」ということを認識する必要があるでしょう。
このシリーズの最初に、十勝は精神科病床数が全国平均と比べ少ない、とお伝えしましたが、十勝の平均在院日数も195日(全国平均376日、北海道328日:02年)と他の地域に比較し、かなり短くなっています。しかし、米国では8.9日と極端に少ないのです。昨年訪問したウイスコンシン州マディソン市の州立精神科病院は、1950年代には1600床あったものが、現在は250床に減っていました。地域社会に精神障がい者の居住や就労の場を提供するためのシステムが網羅され、長期に入院をしていた人々が社会参加をしている結果です。マディソンには障がい者が障がい者を支援しているシステムもあります。十勝の地域精神医療は日本のどの地域より進んでいるとは言え、障がいを持つ人々に寛容のある社会を作ることは、十勝市民の使命であると思います。
最後に、ある統合失調症の回復者の言葉をお伝えします。「私の精神は分裂していましたが、今は統合できています。とても恐い体験でしたが、病気になった御蔭で色んな人と知り合い、体験し豊になりました」と。
次回から当院鎌田医師が感情障害(うつ病など)について連載します。