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コラム

第19回アルコール依存症の治療

今回はアルコール依存症の治療について説明します。急性期に対する治療の第一は断酒から始まります。断酒の意志があっても自宅では実行困難なことが多く、重篤な離脱症状が出現する可能性があることから入院・外来どちらで治療していくか主治医と相談する必要があります。そして震え、発汗、発熱、頻脈、幻覚、けいれん発作、意識障害などの離脱症状を薬物療法により軽減させていきます。

 

次に合併している精神・身体疾患の治療が必要であり、時には内科医との連携が必要となります。

そして一番重要な依存に対する治療が開始されます。アルコール依存者には否認があり、自分を依存症と認めようとしない、飲酒以外には精神的に問題がないと考え、個人的、家庭的、社会的葛藤の存在を認めようとしないことが多く認められます。飲酒により中心的な問題から目を逸らしている場合が多いため、それが極めて不適切な方法であることを認識させ、健康的で効果的な方法を身につけるように導くことが必要です。そのために個人精神療法や集団精神療法が行われます。また断酒会、AA(アルコホーリクス・アノニマス)への参加も非常に効果的です。これらは自らが依存症であることを認め、これまでの体験などを発言し合い、お互いに励まし合い断酒を続けていこうとする組織です。自分の悩みや欠点が他の人たちと共通したものであることを知り、自己洞察を深め、集団の一員になることで孤独感や疎外感、劣等感を軽減することができます。自分が仲間の役に立つことで自信や生きがいも得られます。

 

断酒継続がこれほどまでに必要な理由は、常習飲酒により脳内の薬物衝動が増大しており、この反応性が元に戻らないためです。長期間断酒していても再飲酒を契機に脳内の反応が活発となり、強い飲酒要求を発生させ、すぐに病的飲酒パターンに陥ってしまいます。再飲酒の最初の一口目から元の状態に戻る経過を、水が上がらない井戸に呼び水を注ぎ入れると再び井戸の底から水が湧き出てくることに例えて「涸れ井戸現象」とも呼んでいます。本人の意思の及ばぬ脳内プロセスが駆動するのがアルコール依存症の病態であり、意志や精神力が不足しているからと考えがちですがそれは大きな誤解です。

 

残念ながらアルコール依存症に特効薬はありません。抗酒薬というアルコールの分解を阻害し飲酒を抑制する薬はありますが、根本的な解決にはなりません。一度アルコール依存症になると以前のようにコントロールを効かせた節酒はできなくなります。しかし「断酒」という唯一の方法を続けるなかで回復という新しい人生を歩むことが可能です。

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