第29回介護する人、される人ーお年寄りとその家族のために(上)
認知症は進行するにつれて、その人がそれまで出来ていたことが一つづつ出来なくなっていきます。そのために、認知症に関しては介護を抜きに語ることはできません。
今回からはその介護についてお話します。
最初に、人は関係的・状況的存在であることを理解することがとても大切になります。単身なのか同居者がいるのか、以前から同居していたのか、途中から同居することになったのか、どんな家族構成なのか、そしてどのような家族関係(夫婦、親子、兄弟、嫁ないし婿と姑・舅)だったのか、さらにどんな住宅事情でどんな経済状況なのか。
次に、介護される人(正確にはする人も)がどのような性格で、どのような人生を送り、どのような人間関係を作ってきたのか、そしてどの程度の認知症レベルなのかを理解することも同じく大切になります。
それらのことすべてが、介護状況に大きく影響します。
特に、介護をとても困難にする様々な不適応行動(周辺症状)の成り立ちを考える上では、それらがすべてと言っていいほど重要になります。
具体的にお話しますと、認知症の方々の示すさまざまな不適応行動がどのようにして生じたのかを考え、そこから現にいま示されている行動の「原因」を探り、そしてその原因の解決へとすすめていくことが介護の要点となります。おおまかに言えば、人の行動は「環境の認知(状況の理解)」とそれに対する「反応(行動)」から成り立っていると考えれば、そのどちらかに問題が生じていると言えます。
そのことに加えすべての人は、状況の理解やそれに対する行動にしても、その人の個性によって支配されるわけで、その個性とはその人の人生の総和とも言えるものです。
さらにわかりやすくお話しますと、その不適応行動が「いつ」「どのような状況で」「なぜ」生じるのかを明らかにすることが問題解決への道筋となります。
ここで「いつ」「どのような状況で」は、その不適応行動の「きっかけ」と呼ばれるもので、特に重要なのは「状況」で、「人」や「物」から成り立っている「環境」のことになります。
したがって、その行動がどのような人間関係の中で、さらに、どのような生活環境のもとで生じたのかを明らかにすることになります。
次に「なぜ」は、その人がどんな個性の持ち主なのかを、その人の生活史をひもとくことで理解し、行動上の特徴を明らかにすることになります。
そのことが、その後の介護の大きな手がかりとなります。
精神科医の新福尚武先生は次のように言っています。
「認知症の高齢者の示す行動は、その人の歩んできた人生の結果である」