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コラム

第38回精神科医療の現状と課題

約9ヶ月間精神神経科の医療と福祉についてお話してきましたが、今回でこのシリーズの最後になります。

 

現代のストレス社会において、多くの方がそれぞれに多くの悩みを抱え、その心の症状の一つ一つに対応する事が私達医療従事者の務めなのかも知れません。しかし、それは非常に多様であり精神科医療や心理学がそのすべてを担うのは困難であるのは自明な事です。また精神科医一人では精神医療、福祉を網羅することはできないため、私達はチームを組んでいます。このコラムで医師の他に作業療法士、ソーシャルワーカー、看護師も登場したのは、医師の力のみでは成り立たないからであり、一人の方が心の病になりその病が治療され社会に返って行くまでは、いくつかの専門職との連係プレーで医療や福祉を進めて行く現状をお伝えしたかったからに他ありません。

 

日々私達治療者も現状に対して、「自分が今どこに立っているのか」、「どうすればよいのか」の判断においてよく悩んでいます。それは私達のできる医療や福祉の限界を越えた社会的な問題を多く含んでいるからです。それは不登校やいじめ、校内暴力などの子供の問題をはじめ、社会参加が困難なひきこもりやニート、景気の悪化に伴う失業者の増加、高齢者の役割の喪失などです。そのため悩んだり心の病になり、いざ悩みや病は癒え社会に返る事が出来るようになっても社会が拒否をしたり受け皿がない、といった問題です。

 

現在、国はこの問題を解決するべくシステムを作ろうとしています。障がい者自立支援法などがその例です。しかし、元来システムとは我々が安楽に生活や活動ができるためのものであるはずが、その枠組のなかで均一化がなされ、作られたシステムに翻弄され均一化に対する抵抗も生じてくるのではないかと思います。基本的に大切な事は、障がいと云う枠でくくらず、その個人に合った対応がなされる事であり、「個人の中に障がいがあり、障がいはその人のごく一部であり、その人全てではない」という考え方です。

 

私達の社会は、熱い人冷めた人、動く人静かな人、気の長い人短い人、古い人新しい人など、様々な人々で構成され、また人は自由と拘束、管理と解放、普遍性と個別性など、考え方もどちらかに片寄っているものであり、または片寄れず悩み揺れ動く心も、当然にある心性だと思います。片寄れば反対にあるものへの共感は薄れ、ときには敵対心に発展することもあります。余りにも敵対し、その敵と効率よく戦うために「友情」や「同盟」という副産物が生じますが、結局は同じ人間であり立場や状況がそうさせているに過ぎないと思います。では、私達の敵とは何でしょうか?この問に答えていくことが精神科医療に限らない私達の重要な課題です。

 

最後に私達医療者は「自分や家族が障がいを持ったとしたら」という障がい者やその家族の立場になって共感し、愛他主義が育まれる社会になるよう、少しでも寄与したいと思っています。

長い間有り難うございました。

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